希望

 Aとお出かけをした日は洗濯機を回すには遅い時間に帰宅するため、翌日まとめて洗濯することにしている。普段は夕方に洗濯して、夜に昨晩から一日干していた洋服を畳むのだが、お出かけをした翌日は畳む洗濯物がない。そんなお出かけの痕跡に気づくと、どこかあたたかい気持ちになり、昨日のお出かけを思い出してわたしの心は旅をする。わたしの左隣はすっかりAの定位置になっていて、それが崩れるのは合流して嬉しそうに手を振ってくれる時と、帰宅の際に背中を見送る時、そして食事の時だけだ。並んで話す時間も、向かい合って言葉を交わす時間も、わたしにとってはどれも穏やかだけど煌めいていて、とても大切に思う。時に穏やかでいられなくても、一緒に考えて一緒に悩んで言葉を交わせることが何より嬉しい。Aの見ている景色が知りたい。Aの瞳に映る世界が、聞こえる音が、感じる温度が、わたしをあたたかな場所へ連れて行ってくれるのだ。それをわたしは、この上なく幸せだと思う。ここに人間が二人いて、お互いが見えている景色を伝え合い、未来を描いて歩んでいけることを希望と呼ぶのかもしれない。ふといつものベンチを思い出す。また宙にわたしの名前を書いてよ。