世界

 わたしはAの紡ぐ世界が好きだ。言葉によって紡がれるAの世界は、いつもあたたかくて、ちょっぴりさみしい。Aはいつもいろいろなことを考えている。でもわたしがそのすべてを汲み取って理解することは難しいだろう。人は完全にわかりあえない。しかしそれは諦めではない。だからこそ極限までわかろうと歩み寄ることをやめたくはないし、そうして理解を手放さない時間にもわたしは幸せを感じるのだ。Aの見ている世界は、Aを通して発信され、わたしというフィルターを通してわたしの内部に映る。そこに映し出される世界は、Aが見ているものとはまったく違うものかもしれない。そう思うとさみしくなる。でもAの世界がわたしの中に映し出された時、わたしは確かなあたたかさをいつも感じるのだ。Aの世界に、心に触れる度に、澄んだ冷たい空気の中で、控えめに光を放つ丸みを帯びたAの心を手で包むと、ぼんやりと温もりが伝わってくるような、そんな感覚を覚える。それが愛おしいという感情なのかもしれないと、春の月を眺めながらぼうっと思った。